史上最大級の犬多頭飼育救済を終えて~獣医師からのリポート~

新型コロナウイルスに振り回された2020年度が終わりました。

あらためて2020年度を振り返ってみると、7月の鹿児島県十島村に始まり、
三重県、島根県出雲市、和歌山県橋本市、福岡県相島と、例年より多くの出張手術を実施した1年でした。

そのなかでも特に印象深いのが、報道等でも大きく取り上げられた
島根県出雲市で発生した史上最大級の犬多頭飼育崩壊の救済支援です。

↑一般住宅に161頭もの犬が飼育されていました。

本日は、その過酷な現場にボランティアとして参加された藤田舞香獣医師より、
現場で感じたことや多頭飼育崩壊をなくすために大切なことなどをご寄稿いただきました。

2020年度の締めくくりに、ぜひお読みください!

*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*

この度、出雲市の多頭飼育崩壊現場にボランティア獣医師として
参加させていただきました藤田舞香と申します。

普段は動物病院での一般診療の傍ら、個人ボランティアとして猫のTNR活動 を行っております。

今回、どうぶつ基金さんによる出張手術現場へのボランティアには初めて参加させていただきました。


↑現場で活動する藤田獣医師

このお話をいただいた当初は、あまりに悲惨な状況に言葉を失うとともに、
微力ながらも貢献できる機会を頂いたことに使命感や獣医師としての責任感を感じ、
私にお手伝いできることがあればと参加を申し込みました。

一方で、今まで犬の多頭飼育崩壊現場に入った経験のない私が、
過去に例を見ない規模の悲惨な現場で何ができるのか、
精神的にも耐えられないのではないか等の不安な気持ちも大きくありました。

しかしいざ現場入りしてみると、想像以上に多くのボランティアの皆様が参加され、
また、全国からケージ・首輪・フード・消耗品などの寄付物資がたくさん届いており、
皆様のパワーと気持ちが集まる現場の最前線で役割を頂いたことを実感し、
より積極的な気持ちで活動に参加することができました。

そして何より、同じ気持ちを持った仲間が
全国にはこんなにたくさんいるということを知り、とても嬉しく思いました。


↑全国の皆様からフードなどの支援物資を届けていただきました!

現場のお宅に入り、まず感じたのは強い「違和感」でした。

突然入ってきた見知らぬ私達に興奮して飛びかかってくる犬たちがいる一方で、
息をしているか不安になるほど生気の感じられない痩せ細った犬たちが、
折り重なるように寝ていました。

生と死の対極の空気が共存するような異様な空間に、違和感を感じたのだと思います。

また、病的な弱り方とは少し違った、
生きるのをあきらめているかのような無気力さを動物から感じたのはこれが初めてでした。

今まで私が見てきた、病気で死の瀬戸際にいる動物たちはみんな、
何が何でも生きようとする意志を見せてくれていました。

出会ったことのないその光景は、今も脳裏に焼き付いて離れません。


↑背中に大きな傷があるにもかかわらず治療の形跡は見られませんでした。

その後、犬を現場から保健所に移動させ、
1頭1頭、犬の健康状態のチェックをしていきました。

多くの犬が背骨や肋骨が浮き出るほど痩せていて、
皮膚病や感染症もひどく、耳や足を食いちぎられたような子もいました。

骨折なのか先天的な奇形なのか足が曲がっていて立てず、
その場で排泄をして食事にもありつけていないような子もいました。

保健所では1頭ずつケージに入れて様子を観察していましたが、
そうしたまさに弱肉強食な地獄から脱出した犬たちにとって、
安全の確保された個々の空間が与えられたのは初めてだったようで、
急に見知らぬ場所に連れて来られたにもかかわらず大半の犬が穏やかに寝ていたことも、
私には異様に感じられました。

想像を絶する過酷な環境にいたことが、犬たちから伝わってきました。


↑保健所への移動前。初めて自分だけのスペースを得た犬たち。

現場で飼い主さんと接して感じたのは、
多頭飼育崩壊に至る特定の原因や要素を元々持っているわけではなく、
お話をする限りでは温和で優しいごく普通の方であるということです。

犬たちと接する姿からも一定の愛情を感じ取ることができました。

一方で、犬たちがどんどん多頭化していくなか避妊去勢等といった適切な対処を取らないままに、
多頭飼育の状況が30年以上にわたり常態化していった結果、
その状況が異常であるという正しい判断ができない状態になってしまっていたのではないかと感じました。

つまり、もともとの人柄や動物に対する関心のなさが始まりなのではなく、
多頭化する状況に対して飼い主として正しい対処ができなければ、
誰にでも多頭飼育崩壊は起こり得るということです。

また、動物に対する愛情があったとしても、
十分な食餌、医療、清潔で安全な場所の提供など、
飼い主としての責任を長期にわたり果たしていないことは、
消極的虐待・ネグレクトにあたると考えられます。


↑あばらが浮き出るほど痩せていました。

飼い主には自覚がなくとも虐待をしてしまっているケースがあるということであり、
これは非常に恐ろしいことだと思います。

こうした状況を未然に防ぐためには、
適正飼育に対する飼い主側の問題の解決に加えて、
周囲が適切にサポートできるかどうかが重要であると感じています。

つまり、飼い主側は動物を飼育することそのものに対して十分に検討し、
飼い始めてからも、適正に飼育をするための継続的な知識の充足が必要であると同時に、
行政等からの定期的な指導や協力といった、
正しい判断基準を持った第三者の介入も合わせて必要であると感じました。

今回のような多頭飼育崩壊現場は全国にまだまだ多くあります。
コロナ禍で数が増えているとも聞きます。
そこでは、飢餓、集団リンチ、共食い、過剰な繁殖等といった環境で
苦しみながら生きる動物たちが多くいると思うと本当に胸が痛みます。

ステイホーム期間に動物を飼い始めた人が増えているといいますが、
飼う前に今一度、動物を飼うということがどういうことか、
考えてみてほしいと思います。

どの動物も、病気になるし、凶暴な子や夜鳴きをする子もいるし、
しつけがうまくいかず日常生活に困ることもあります。
雄と雌で飼っている場合、特に猫は繁殖力が強く、
驚くほどあっという間に増えてしまいます。

また、犬も猫も20年近く生きる時代になり、
その分生涯にかかる飼育費や医療費も増加しています。

このコロナ禍にあって、20年後の未来を明確に予想できる人はどのくらいいるのでしょうか。
経済事情、家族の状況、自身の病気、災害どんな状況であっても、
飼い主は生涯責任をもって飼育しなければなりません。

一時の感情で衝動的に飼い始めてしまい、
その後に適切な飼育が継続できていない場合、
それは虐待となってしまいます。

普通の家庭から、ちょっとしたきっかけで、虐待や多頭飼育崩壊は起きてしまうと思うのです。

犬や猫は、人間の生活を豊かにしてくれるパートナーであり家族だと思います。
適正な飼育、ともに生きるとはどういうことかを、
ぜひ多くの人に考えてもらいたいと思います。


↑このような状況にならないように、一人一人が考えなければなりません。

最後になりますが、どうぶつ基金さん、地元の保護団体の方々、その他一緒に現場で頑張ってくださった方々、寄付を送ってくださった全国の皆様、この件を気にかけご心配してくださったサポーターの皆様、本当にありがとうございました。

多頭飼育崩壊はまだまだ尽きない社会問題ではありますが、同じ問題に向き合ってくださっている皆様とともに、不幸な命を少しでも減らしていければと思います。

*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*

いかがでしたでしょうか。

どうぶつ基金の現場へは初参加だった藤田先生。
稀に見るひどい状況のなかで、テキパキと役割をこなしながらも、
犬たちに向ける優しい表情が印象的でした。

藤田先生のような獣医師の協力があってこそ、どうぶつ基金の活動は成り立っています。
熱い志を持った獣医師の方々、日々TNR活動にご尽力いただいている協働ボランティアの皆様に、
この場を借りて感謝を申し上げます。

*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*

多頭飼育崩壊の現場は、私たちにいろいろなことを突き付けてきます。
ヒトの身勝手さや愚かさ、貧困や社会的弱者への福祉の問題、
日本社会における犬や猫たちの命の軽さ、一向に進まない動物愛護行政への憤り…。

しかし、迷って立ち止まっている時間はありません。
どうぶつ基金は、2021年度も殺処分ゼロに向けて前進します。
どうか、変わらぬご支援をお願いいたします。

~2021年度、どうぶつ基金は全国3か所に病院を開設いたします~

詳しくは、以下よりご確認ください。
TNR地域集中プロジェクト

*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*—*

どうぶつ基金が、出雲市をはじめとする
全国での多頭飼育救済支援や出張手術などに迅速に活動できるのは、
皆様からの継続的なご支援があればこそです。
2021年度も何卒よろしくお願いいたします。

https://www.doubutukikin.or.jp/contribution3/