動物が大好きなみなさんへ、野生生物を守るお話

こんにちは、どうぶつ基金理事長の佐上邦久です。

どうぶつ基金ではこれまで犬や猫の殺処分ゼロ実現のために活動を続けてきました。

2021年度から「ちきゅう部」の活動を行うにあたって、

犬や猫ではなく野生生物保全や環境保護分野で、
活動している人たちに寄稿をお願いしています。

今回は長年コンゴ共和国で象の保護活動を続けている萩原幹子さんが

動物保護関係のNGOの違いについて教えてくれます。

犬や猫といったペットの活動をするNGOと
野生生物保全や環境保護活動をするNGO、

どちらも地球や命を守るための活動ですが、
それぞれの考え方や想いには温度差や違いがあります。

萩原さんのお話が、そんな壁を乗り越えて協働するためのヒントになれば幸いです。


photo sagami

 

動物が大好きなみなさんへ、野生生物を守るお話

野生生物といえば、アフリカの大草原で草を食べるゾウやキリン、
狩りをするライオン、アマゾンの森林に暮らすジャガーやナマケモノ、
大洋で潮を吹く大きなクジラ・・・

誰もが一度はテレビで見たことがあるシーンを思い浮かべるのではないでしょうか。


photo sagami

サファリツアーなどでこういった野生生物の暮らす場所を訪れると、
気付かされることがあります。

「動物たちが暮らす場所に、人間がお邪魔させてもらっている」ということです。

もちろんテレビ番組のようにBGMも流れておらず、
そこには静かな時間がゆったりと流れています。

私たちは動物園で動物を見るときのように、
「あ、キリンだ!」「カワイイ!」と叫んではいけません。

動物たちを驚かせたり怖がらせたりしないよう、ひそひそと話します。

また、犬や猫のように、長い年月をかけて人と暮らすようになった
コンパニオン・アニマルと野生動物は違うので、近寄りたい、触りたい、
という思いはぐっとしまい込まねばなりません。

動物たちも、人間が害を加える存在ではないとわかると、
逃げたり攻撃したりせず、人間のことをそっとしておいてくれます。

野生生物を守るということは、このように、人間のエゴを除いて、
動物たちが暮らす自然環境の中でそのまま動物たちを守る、
ひいては動物たちの暮らす環境全体を守るということなのです。

というのも動物たちはその生態系の中で担う役割があるからですが、
ここではそのお話ではなく、野生生物保護の活動が
難しいというお話をさせていただきます。


マエキタさんの文章にあったNGOですが、
動物保護関係のNGOも国内外に多数あります。

私は動物の中でも特に好きなゾウが絶滅の危機にあると知り、
何かできないかと、野生生物を守るNGOに
ボランティアとして長年携わってきました。

そこでの国内外の活動を通して、様々なNGOの存在を知りました。
動物保護関係のNGOは、大きく以下のように分けられます。

  1.      動物愛護・動物福祉

・ペット、家畜などの残酷な扱いをやめるための活動

・野生動物の残虐な利用やペット化をやめるための活動

  1.      環境・野生生物保全

・野生生物の減少につながる捕獲や取引をやめるための活動

・野生生物の減少につながる環境破壊をやめるための活動

  1.      生物の持続的利用

・人間が商用、食用、伝統工芸などに利用するため、
野生生物が減少しない程度に守る活動


1.動物愛護・動物福祉の問題は、
目の前にいる動物たちが「かわいそう」という思いから、
有名なタレントさんたちも声を上げてくれ、
非常に多数の人が支援してくれますね。支援金もたくさん集まります。

かたや、2.野生生物保護ですが、
先に、野生生物保護の活動が難しい、と書きました。
なかなか多数の人の支援を受けられないのです。
理由は大きくわけて、二つあると思います。

ひとつには、多くの日本人は野生生物を意識しない生活をしているので、
野生生物が絶滅の危機に瀕している、と言ってもピンと来なかったり、
自分と関係ない、関心が無い、ですまされてしまう。

ところが決して少なくない日本人も、知らない間に
外国の野生生物の減少に影響を与えています。

印鑑に使われる象牙は、多くのゾウが密猟者に殺されて取られています。

エキゾチックアニマルとしてペット化される珍しい動物、
鳥類、爬虫類なども、闇取引で輸入されたりしています。

また、私たちが日ごろ使っている工業製品には、森林伐採や、
資源採掘のために野生生物の生息地を奪って作られている物があります。


photp sagami

このように目の前にいない、意識していない野生生物のことを
できるだけ多くの人に知ってもらうために、
野生生物保全のNGOは奮闘しています。

もうひとつの理由は、日本政府の政策が、
野生生物の利用を重視していることです。

世界の環境・野生生物保全系NGOの中では、
アメリカやイギリスを本部として世界各地に支部を持つ、
大きな団体の存在が大きく、「ワシントン条約」と呼ばれる、
「絶滅の危機に瀕した野生動植物の国際取引に関する条約」の締約国が集まる会議でも、
各国の政府代表団のアドバイザーとして提言をしたりしています。


photo hagiwara

一方、日本政府は、上記3つのNGO分類のうち、
3. 生物の持続的利用の立場を取っているので、
動物の種ごとに「利用するためのルールを決めて、
動物の数が減らないように管理しよう」という提案の多くに反対しています。

そして1.や2.の動物を守ろうという立場のNGOの主張に歩み寄ってくれないのです。

「野生生物が減少しない程度に守りながら利用する」ならいいんじゃないの?
と思われるかもしれませんね。

世界には環境問題を科学的に研究する機関がたくさんあります。

たとえばIUCN(国際自然保護連合)という団体では、
世界中の研究者たちが調査したデータを提供して、議論して、
絶滅のおそれのある動植物のリスト「レッドリスト」を作っています。

ところがこういう科学データも、
人間の利用を優先したい人たちは「過保護」かのように解釈します。

それに対して、減りすぎて手遅れになる前に、
これ以上減らさない努力をしよう(予防原則と言います)、と、
野生生物保全のNGOは主張しているのです。

なぜなら野生生物の命運を握る状況は複雑で、
武力衝突の間に密猟が横行したり、
経済力が強くなった国で野生生物製品の需要が急増したり、
自然災害や病気で動物が大量に死んだりなど、
コントロールが難しいことがたくさんあり、
「守りながら利用する」ことは簡単ではないからです。

最後に、動物の大好きなみなさんには、
触ってかわいがったり一緒に暮らしたりはできない野生生物のことも、
コンパニオン・アニマルと同じように大事に思って、
NGOの活動を支援してもらえるとうれしいです。


photo hagiwara

 

★もっと知りたい方におすすめの本★

「野生動物のためのソーシャルディスタンス:
イリオモテヤマネコ、トラ、ゾウの保護活動に取り組むNPO」戸川久美(新評論)

プロフィール

萩原幹子(はぎわらみきこ)

日本で会社員をしながら野生生物保全論研究会(JWCS)など
複数のNGOのボランティアを経て退職後、
2002年イギリスのケント大学で保全生物学修士取得。

2004年から3年半、中部アフリカのコンゴ共和国オザラ国立公園で、
マルミミゾウの畑荒らし問題の調査にたずさわり、そのままコンゴ共和国在住。

現在はフリーランス・コーディネーター、JWCSのプロジェクトスタッフ。


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