【ちきゅう部だより】第7回 アフリカで飼育繁殖されるアジアのトラ

こんにちは
どうぶつ基金事務局です。

本日は「ちきゅう部だより」コンゴからのシリーズ・第7弾をお届けします!
長年コンゴ共和国に住んでゾウと人間の共存問題に取り組まれている
萩原幹子さんから届くお話。

今回は、トラのお話です。
トラが絶滅の危機に瀕していることは多くの方が知っています。

しかしながら、世界の中で繁殖されて取引されている、
そんな現実を知っている方はどのぐらいいるのでしょうか?

恥ずかしながら今回初めて知ったことが多くありました。
これは多くの方に知っていただきたい、強くそう思いました。

ぜひご一読ください。

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第7回 アフリカで飼育繁殖されるアジアのトラ


前回ワシントン条約について、全体的なことを書かせていただきましたが、
会議の場に行くと、日本ではなかなか自分からは知ることのない問題を学ぶこともできます。
今回は条約で守られている種でも、それだけでは守りきれない問題、
トラの繁殖施設について書かせていただきます。

トラといえば日本人にとっては多くの動物園やサファリパークで必ず見る
ことができる、親しみのある動物ですが、野生のトラが絶滅の危機に瀕していることを
ご存知の方も多いでしょう。

トラはもともとアジアにすむ動物です。20世紀初頭には10万頭いたと言われているそうですが、
現在世界で約4000頭、4%しか残っていません。
その約7割以上がインドに、あとインドネシア、ロシア、ネパール、タイ、バングラデシュ、
ブータン、マレーシア、ミャンマー、中国に少しずつ生息しています。
かつて生息していたカンボジア、ラオス、ベトナムでは絶滅してしまいました。

トラはインドの植民地時代(20世紀半ばまで)に特に、
スポーツハンティングのためにイギリス人らに大量に殺されました。
インドで1972年に狩猟が法律で禁止になってからも、その数は減り続けました。
その大きな原因は、毛皮や骨など体の部位を目的とした密猟、そして生息地となる森林の減少です。

日本にもトラの骨の漢方薬やお酒が中国から合法に輸入されていた時代がありましたが、
現在は輸入も国内での販売も禁止されています。
ところがまだネット上に希少品として販売されているサイトがあります。
そして中国ではトラの骨を使った薬やお酒は、滋強剤としていまだに根深い需要があります。

トラの密猟・トラ製品の密輸を防ぎ、人間の活動のせいでどんどん少なくなっているトラの生息地を
維持、回復させるために、複数のNGOが現地政府やNGOと協力したりしながら、様々な努力をしています。
下記サイトに詳しく取り組みが書かれています。

WWFジャパン
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/hnc9vweqlzi0/imdvi6zs/

認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/bqa9lraydyc7/imdvi6zs/

ところが、こうしたトラを守るための努力の障害となってしまう、
商業目的のトラの繁殖施設というのが存在します。

絶滅の危機にある動物を「生息域外」で守るために、繁殖施設が使われることがあります。
具体的には動物園やサファリパークなどです。

パンダの例を思い浮かべていただければ、パンダの故郷である中国に大規模な繁殖施設がありますし、
世界中の動物園にパンダを送って繁殖させて、また中国に戻すということが行われていますね。
遺伝子も偏らないように配慮されています。
条件が整えばパンダを野生の森に返す試みも行われています。


中国四川省の成都にあるパンダの繁殖センター、パンダの動物園として
中国人の訪問客も多数訪れている

ところがトラの場合は、そのような「保全」のための繁殖ではなく、
トラの皮、歯、骨、爪、肉を取るという「商業目的」でトラを繁殖している施設が存在するのです。
そして動物園も含め、人間による飼育下にあるトラの数が、
野生の数の3倍もあるという報告がありました。

(2020年UNODC(国連薬物犯罪事務所)の報告書
https://www.unodc.org/documents/data-and-analysis/wildlife/2020/World_Wildlife_Report_2020_9July.pdf

ワシントン条約の附属書Iに掲載されている絶滅危惧種の繁殖施設ついては、
業者名、場所や扱う種、繁殖する元となる個体の入手方法などの詳細を、
締約国が条約事務局に登録しなければならないことになっています。

そして特にトラについては、いずれ商業目的の繁殖施設を消滅させるために、
「商業的規模でトラの繁殖を集中的に行っている締約国は、飼育個体数を
野生のトラの保護にのみ資する水準に制限する措置を実施すること。トラは、
その部位や派生品の取引のために飼育されるべきではない。」
という決定も2007年に出されています(決定14.69)。

というのも、野生から取ったのではない、飼育繁殖したトラやその製品が流通することで、
常に野生のトラも狙われ続け、保全にとって全く逆効果になっているからです。
中国では、野生のトラから取った部位のほうが、飼育繁殖したものより
効果があるので好まれるとまで言われています。

しかも、トラはワシントン条約附属書Iでもっとも厳格に保護されていますが、
附属書IIに掲載されているアフリカのライオンは取引の数が管理されながら合法に取引されている状態で、
トラの代わりにライオンの部位まで使われるようになってきたという記載もあります。

(ライオンの骨、伝統薬人気がもたらす危機 南ア,2012年8月27日,AFPBB News)
https://www.afpbb.com/articles/-/2897184?act=all

その問題となっている「トラの繁殖施設」はどこにあるのでしょうか。

元祖は最大需要のある中国です。トラの国際取引は1975年に禁止されましたが、
1986年に、主に伝統医学に骨を使用するために政府が資金提供をして、初のトラ農場が作られたそうです。

いっぽう、国際レベルではトラの骨、サイの角が中国で伝統治療薬に使われることに対して圧力が高まり、
1993年に中国政府は国内でトラの骨、サイの角を販売することを禁止しました。
が、トラの皮については禁止しませんでした。
中国の国内でトラは引き続き繁殖されてきました。

そしてこのようなトラ農場はラオス、タイ、ベトナムにも広がっていきました。

その後、2018年に中国政府は、1993年の禁止令を廃止して、飼育繁殖したトラの骨とサイの角は、
病気の治療や研究への使用を許可するという命令を出しました。
が、さすがにこれは国内外からの反発が激しく、実施が延期されたままになっています。

昨年のワシントン条約会議では、フォー・ポーズ(Four Paws:四つ脚)という国際NGOが、
トラの繁殖施設についてのサイドイベントを行いました。
彼らが注目したのは、南アフリカにあるトラの繁殖施設です。

Four Pawsのウェブサイト
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/67aofzuximnq/imdvi6zs/


トラとライオンが一緒に繁殖されている南アフリカのファーム

南アフリカでは、トラの商業的繁殖と、育下で飼育されたトラの
国内および国際取引を禁止する法律がありません。
許可を得れば取引できる状態です。

本来、南アフリカ政府は、保護対象種の繁殖施設についてその場所、数や種を
把握していなければならないところ、フォー・ポーズの情報公開請求に応じた地方行政はごく一部で、
全国規模でトラの繁殖施設の実態をつかむことは不可能という結果でした。

ライオンについては、およそ300の民間施設で12,000頭のライオンが飼育されているという
非公式なNGOの情報があります。
ウェブで検索すると、保全を謳ったトラとライオンを繁殖しているレジャー施設が出てきます。
そもそもトラはアジアに分布する動物で、アフリカにはいないのに繁殖されているのです。

そしてワシントン条約の取引データベースによると、2011年から2020年の10年間で、
合法に取引された記録の中でも、南アフリカは最大の大型ネコ科動物の輸出国であることがわかりました。

この10年間で、359頭の生きたトラが、そして93件のトラの部位が、
輸出許可を得て南アフリカから輸出されています。
輸出先は多くがベトナム、中国、タイです。一方、ベトナムは75頭、中国は45頭、
タイは42頭の生きたトラを輸入した記録があることから、
南アフリカがこれらの国々への供給源になっていると考えられています。

トラ以外の大型ネコ科動物も以下の記録があります。

ライオン:1949頭の生体、7311頭分のトロフィーハンティング*、7196頭分の骨
ヒョウ   :61頭の生体、807頭分のトロフィーハンティング、609頭分の骨や部位
ジャガー :33頭の生体、3頭分のトロフィーハンティング、2頭分の毛皮
(*トロフィーハンティング:高い費用を払い、銃で動物を仕留め、
  一緒に写真を撮って頭などのはく製を持ち帰るレジャー)

これらはあくまで正式に許可を得て輸出された数であって、密輸されたものは入っていません。

フォー・ポーズが2022年に出した報告書
「寅年?南アフリカの大型ネコ科動物の繁殖:国際的なアクションが必要–悪循環を断ち切る」

https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/p6m1m6deo1t6/imdvi6zs/

さきほどのトラの輸出先であるベトナムやタイ、そしてラオスにもトラの繁殖施設があり、
その周辺国を通す中国への密輸ルートが数十年前から存在することを、
Environmental Investigation Agency(イー・アイ・エー)という国際NGOが調査して報告しています。

ラオスで繁殖された幼獣がベトナムへ送られて成獣にされ、大消費地である中国へ、
またタイやミャンマーを経由して中国へ密輸されたり、
取引記録の無い300頭のトラが行方不明になるなど、
多数のトラがその部位のために取引されている実態を暴きました。

このような密輸を行う個人やネットワークの多くは、トラだけでなく、象牙やセンザンコウ、
サイの角なども取引する国際的犯罪組織と化しています。

このEIAという国際NGOは、こういった国際違法取引にも勇敢に潜入調査を行ったりして、
関係する現地政府に対して、またワシントン条約の場での改善アピールを行っています。

昨年のワシントン条約会議では、国際的プレッシャーを高めるために、
繁殖施設の登録を強化して情報をオープンにし、条約の締約国も監視できる
ようにすることが提案され、検討されることになりました。

Environmental Investigation Agency (EIA)のトラの繁殖施設についてのウェブサイト
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/30kuqrnveojz/imdvi6zs/

繁殖施設の問題は、ただ野生のトラの需要が刺激されて密猟につながるだけではありません。
遺伝子に配慮されない近親交配、劣悪な飼育環境など、動物福祉の観点からも問題視されています。
本来のトラの生態に反して、幼い子トラを母トラから引き離し、
母トラに短いサイクルで妊娠させるという問題もあります。

ワールド・アニマル・プロテクションというNGOの報告書
「残酷な取引–大型ネコ科動物の飼育繁殖がアジアの伝統医療産業にどう使われているか」

https://www.worldanimalprotection.org.au/sites/default/files/media/au_files/trading_cruelty-fullreport_0.pdf

ご紹介したウェブサイトは英語ばかりで、残念ながらトラの繁殖施設の問題は
日本語ではあまり詳しく発信されていません。
が、私たちにできることは、こういうNGOを支援することです。

トラはその生息環境を守ることでトラ以外の動植物も守ることになる、
象徴種(フラッグシップ・スピーシーズ:保護のシンボルになる種)でもあり、
アンブレラ種(生態学的にその傘の下に入る多くの動植物と環境を保全できる種)でもあります。
この機会にトラに思いをはせてみてください。

その他の参考サイト
野生生物保全論研究会(JWCS)
【CITES SC74】疑わしいトラ繁殖施設の実地調査を!
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/cxlvbflna1i1/imdvi6zs/

萩原幹子
プロフィール
日本で会社員をしながら野生生物保全論研究会(JWCS)など
複数のNGOのボランティアを経て退職後、
2002年イギリスのケント大学で保全生物学修士取得。
2004年から3年半、中部アフリカのコンゴ共和国オザラ国立公園で、
マルミミゾウの畑荒らし問題の調査にたずさわり、そのままコンゴ共和国在住。
現在はフリーランス・コーディネーター、JWCSのプロジェクトスタッフ。
2021年から再びオザラ国立公園でマルミミゾウの畑荒らし問題に関するプロジェクトを実施中。

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