【ちきゅう部だより】第2回 マルミミゾウの畑荒らし対策(1)

こんにちは
どうぶつ基金事務局です。

本日は「ちきゅう部だより」新シリーズの第2弾をお届けします!

長年コンゴ共和国に住んでゾウと人間の共存問題に取り組まれている
萩原幹子さんから届くお話。

日本とは違いコンゴ共和国では生活とともにゾウとの問題があります。
日常生活のなかで起こるゾウとの深刻な問題とはどのようなことなのか?
ぜひご一読ください!

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第2回 マルミミゾウの畑荒らし対策(1)

前回は私とアフリカ、ゾウとの関わりについて、そしてゾウにまつわる問題を
ご紹介しました。今回はゾウと人間のコンフリクト(対立)について、コンゴでは
どのような状況なのか、私がどのような対策を模索したかをご紹介します。

日本でも野生生物と人間の接触が多くなり、サル、シカ、イノシシ、クマなどとの
共生が問題になっていて、さまざまな対策が取られていますね。ゾウの問題は、
体が大きいだけにそのインパクトが大きいことです。特に群れで畑に現れた場合は、
あちこち踏み荒らして畑に壊滅的な被害をもたらしてしまいます。

私が初めて2003年11月にオザラ・コクア国立公園の南部の村へ調査に行ったときは、
マルミミゾウによる畑荒らしがあるとは聞いていたものの、7か月間、何も被害は
起きませんでした。その間、村人たちがどのような農業をやっているのか見に畑を
訪ねたり、森の中の果実が実っているかどうか、森を歩き回ったりしていました。

そして突然起きた畑荒らし。ゾウの来た道をたどると、畑のすぐそばの森に、ゾウが
大好きな木の実がたわわに実っていました。ゾウはこれを食べに畑の近くまで
来ていたのです。そしてついでに畑に入ってみた。ところがこの畑はまだ植えて
間もなく、キャッサバが実ってはいなかったので、ただ踏み荒らして、帰っていきました。
キャッサバが実るころにはゾウも村からすっかり遠ざかっていきました。


畑のすぐ近くの森で実っていた、現地名オベイという果実。
甘酸っぱいので人も食べます

コンゴなどのアフリカの森林地帯では、森を切り開いて焼き畑をし、
3~4年耕したあとは放置して別の場所を開墾するという農業を行っています。
放置した場所は2、3年ですっかり森に戻り、7年ぐらい待てばまたそこを開墾
することもできます。道路沿いの森を開くこともありますが、多くは森の中に
20~30分歩いて入っていき、四方が森に囲まれた場所を開墾しますので、
畑と森はまさに隣接しているのです。

2006年に今度は国立公園の北部の村へ調査に行ったときは、公園の境界線でもある
幹線道路沿いにある数か所の村で、ゾウによる畑荒らしがひどくなっていました。

コンゴの畑に植えられている作物は、現地の人々の主食であるキャッサバ芋、
プランタンバナナ、そしてトウモロコシが主です。特に国立公園の北部では
プランタンバナナが主食としてよく食べられていますが、ゾウはなっている
バナナの実ではなく、木の幹を引き裂いて食べてしまうので(水分たっぷりの
アスパラガスのような感じ)、大きく成長した木も小さい木もすべてダメに
されてしまいます。キャッサバ芋も、苦い種類と甘い種類があり、苦いほうは
ゾウは食べないので地面から引き抜くだけと言われていたのですが、だんだん
それも食べるようになってきました。


ゾウに引き裂かれたバナナの木と、引き抜かれたキャッサバ芋

ゾウは人が畑に来る昼間を避けて、夜にやってきます。サバンナ地方ではよく
見張り台を建てて、夜にはライトをつけてゾウが近づいてきたら追い払うという
対策をやっていますが、ここでは森の中からいつゾウが出てくるかもわからず、
村人は怖がって夜は畑に行くことができませんでした。しかも男性がいない世帯
では、一度ゾウに入られたら、昼間ですら女性だけでは畑に行くのを怖がり、
そのためゾウは繰り返し畑に来て作物を食べつくしてしまうという状況でした。

この公園北部は、2001年に国立公園が拡張された際に「保全=Conservation」と
いうものに村人が巻き込まれることになりました。それまでは、畑の近くでゾウを
見ようものなら殺していたのですが、レンジャーがパトロールをするようになり、
保護されている動物は殺すことができなくなりました。公園当局にはなすすべがなく、
村人たちにとって、動物は守られていて、その動物が人間を困らせているのに、
人間を守ってくれない、と公園当局に対する怒りがだんだんひどくなっていきました。


幹線道路を挟んで点在する、電気も水道も無い小さな村。
その約10年後に景色は一変、今は道が舗装道路になっています

私が拠点としたミエレクカ村に着いたときは、「まずは被害状況を調査してから」
と言っている場合ではありませんでした。人口100人程度の小さな村の、
8割ぐらいの世帯の畑が次々と被害にあっていたのです。私にまで
「どうしてくれるんだ!」と怒りをぶつけてくるので、ともかく何か、
畑をゾウから守る方法を探らなければ、と必死に悩む日々が始まったのです。

当の村人たちは何か対策を取っているのだろうか!?と思ったら、さきほど
書いたようにゾウにたいする恐怖心で、何もできないでいました。
それだけでなく、「公園が守っているゾウのために、なぜ我々が追加の労働を
して畑を守らなければいけないのか?エコガード(公園職員であるレンジャー)
がその仕事をすべきだ」というのが言い分です。

また、ゾウのリーダーである「パパゾウ」を殺せば、他のゾウも逃げるはずだ、
1、2頭殺してほしい!とも言っていました。

2000年代初頭にはケニアやジンバブエなど、サバンナゾウの生息国では、
さまざまな防御対策が検討されていました。その中には、「問題児」として
繰り返し畑に現れるゾウを当局が殺した例もありましたが、少しの間被害が
おさまったのち、またゾウが現れるようになったそうです。そのため、
IUCN(国際自然保護連合)のアフリカゾウ専門家グループ、ゾウとヒトの
コンフリクト作業部会(Human-elephant conflict working group)では、
ゾウを殺す方法は効果が無いと結論づけています。

私も「コンサベーショニスト(保全者)」として、ゾウを殺さないでいい
方法を探しましょうと言い、いろいろな方法を実験してみました。

1. 夜警
畑の一角で焚火をして、夜は畑に泊まります。村人で勇気のある男性に頼んで、
毎日ゾウが出ると言う彼の畑で夜警をしてもらいました。ゾウが近づくと森の葉が
ざわざわと音を立てるので、声を出して木の切り株を叩いたりして、追い返した
そうです。効果はあるのですが、家族を村に残して毎日森の中の畑に泊まることは
できない、と言いました。夕方に焚火だけしておき、村に帰ると、臭いで少しは
ゾウは用心しますが、人がいないとわかると畑に入ってしまいました。


畑の中で起こした火の跡。薪を切り出すのも一仕事

2. 除草
畑の雑草を除いて見通しをよくしておくことで、ゾウが警戒することを狙います。
森の茂みから開けたところに出る際にはゾウは危険が無いか用心するからです。
知り合いのバナナ畑が草ぼうぼうだったのを除草したところ、最初は畑の周辺部、
雑草だらけのところが被害にあいました。それから何も邪魔されるものが無いと
わかると、除草した部分も荒らされてしまいました。最初から全滅の被害に
あうのは避けられる可能性はあります。


雑草だらけのバナナ園と、きれいに手入れされたバナナ園

3. ゾウの糞の臭い
ヤギにキャッサバ芋の葉を食べられるのを防ぐ方法として村人が、ヤギの糞を
水に溶いてキャッサバの葉に塗る、と言っていたのにヒントを得、バナナの木で
試しました。ゾウの糞を水で溶いて、バナナの木の幹や葉にふりかけました。
185本のバナナ園で26本だけ塗らずにおいたところ、塗っていないバナナを10本、
塗ってあるバナナ159本中33本が食べられました。その後雨も降り、何も危険が
無いことがわかり、すべてのバナナの木が食べられてしまいました。糞の臭いが
弱いと効果が無いうえ、雨の後には塗りなおすという仕事もたいへんな方法です。


ゾウの糞を水で溶いてバナナの葉にふりかけているところ


試験的にゾウの糞の臭いを付けた努力もむなしく、
ゾウに食い荒らされてしまったバナナ

4. 紐による囲いとマラカス、および廃油と唐辛子の雑巾
ジンバブエでのゾウとのコンフリクトのセミナーから帰ってきた公園スタッフの
助けで、畑の周辺に杭を立てて紐で囲い、ところどころに空き缶で作った
マラカスと、エンジンオイルの廃油と唐辛子に浸した雑巾を吊るしました。
3か月間ゾウはそこを通りませんでしたが、とうとう紐を引きちぎって畑に進入、
ただし雑巾の近くは避けていました。


空き缶に石を入れたマラマス、ゾウが入ろうとすると音を立てるのは効果があるか?


廃油と唐辛子の臭いをつけた雑巾をところどころ吊るした

5. 廃油と唐辛子に浸した布のバリア
森の中を棘も気にせずブルドーザーのように歩くゾウにとっては、障害物は
あまり意味が無い。しかし臭覚が非常にすぐれたゾウは、上記の廃油と唐辛子の
布のように、嫌な臭いの物には触りたくないのではないか、触らなければ
入れないようになっていれば、入らないのではないか、と考えました。
そこで廃油と唐辛子に浸した布をところどころではなく、全面的にゾウの通行を
防ぐ長い布で、毎日ゾウが通過していたところに60メートルにわたって柵を
立てました。するとゾウはその場所を避けて通るようになりました。


廃油と唐辛子できつい臭いのする布を倒してまではゾウは通らなかった

そこで次は、特定の人の作物だけが守られるという問題が生じないように、
調査費で独自に畑を開墾し、廃油と唐辛子の柵を設置することにしました。
3つの村に1ヘクタールずつ、あえてゾウが出没しやすい場所にトウモロコシと
キャッサバを植えて、畑の全周囲を柵で囲みました。

結論は、この柵は有効で、無事作物を収穫することができました。ただし柵の
周辺を2、3日おきに見回りし、柵が雑草に覆われたり倒れたりしていないか、
メンテナンスをする必要があります。また、臭いが薄れたら廃油と唐辛子を
塗りなおす必要があります。

追加労働をしたがらない村人たちにとって、一度設置すれば見回るだけでよく、
しかも材料費は決して高額ではないので、材料供給の援助さえあれば推奨される
方法だと報告書を書いて、調査をいったん終えました。というのも私が淡々と
調査・実験をする傍らで、村人たちの周辺でさまざまな変化が起きていたからです。
これは次回に書かせていただきます。

助成団体:
2003-2004年:米国魚類野生生物局ゾウ保護基金
2005-2007年:プロ・ナトゥーラ・ファンド
2007-2008年:野生生物保全論研究会 ゾウ保護基金

萩原幹子
プロフィール
日本で会社員をしながら野生生物保全論研究会(JWCS)など
複数のNGOのボランティアを経て退職後、
2002年イギリスのケント大学で保全生物学修士取得。
2004年から3年半、中部アフリカのコンゴ共和国オザラ国立公園で、
マルミミゾウの畑荒らし問題の調査にたずさわり、そのままコンゴ共和国在住。
現在はフリーランス・コーディネーター、JWCSのプロジェクトスタッフ。
2021年から再びオザラ国立公園でマルミミゾウの畑荒らし問題に関するプロジェクトを実施中。

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