【ちきゅう部だより】ちきゅうのはじっこで考える vol10

こんにちは
どうぶつ基金事務局です。

本日は「ちきゅう部だより」の第10弾をお届けします!

アウトドア&通訳ガイドの青崎涼子さんが語る旅のお話、
今回は北陸地方にある白山が舞台です。

高山植物の花の宝庫である白山。
その素晴らしい生態系を保つには、一人一人の心がけが何より大切です。

貴重な自然環境は、人の手によって足によって容易に壊れてしまうもの。
身近なところで、自らできること、協力できることがきっとあるはず、
そう考えされられるお話です。ぜひご一読ください。

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ちきゅうのはじっこで考える vol10:その靴掃除しましたか?

皆様こんにちは。
ちきゅうのはじっこを旅するガイド、青崎です。

なんとなく海外旅行の気分にならない昨今、
この夏は日本の山をテクテクと歩いていました。
その中で、今日は、富士山、立山と並び、日本三大霊山の
ひとつである、加賀白山の思い出を、お話したいと思います。

山に登り、森林限界を越えると現れる可憐な高山植物は、登山の大きな
楽しみのひとつでしょう。高山という露出した過酷な環境で、短い夏を
必死に生きる可憐な花々の姿は、毎回胸がキュンキュンしてしまいます。


風を避けるかのように岩陰に咲くヒメシャジン

高山植物に意識を向け始めると、徐々にその名前が気になりはじめます。
そして気づくのが、「ハクサン」で始まる名前の植物の多さです。


ハクサンイチゲ


ハクサンコザクラ


ハクサンシャジン


ハクサンフウロ


ゴゼンタチバナ。(山でよく見かけるこの花も、白山の別名「御前峰」
の名前からつけられています)

などなど。合計18種類の植物が、ハクサンの和名をもつのだとか。
そう、白山は、花の山なのです。
先に、白山が「日本の三大霊山のひとつ」と述べましたが、
この山は、昔から、宗教登山として親しまれ、登られてきたため、
山の案内人も多くいました。明治時代、植物研究者たちは、
こういった案内人とともに山へ入り、そこで見つけた花たちに、
ハクサンの地名を取り入れ、名付けていったのです。

私の場合は、山野草に親しんでいったのがフランスにいた時期だったので、
図鑑で「ハクサンxxx」という名前の花を目にするたびに、
まだ見ぬ白山への思いを強くしていました。

という、強い思いと期待があっての白山登山。
7月後半の、よく晴れた夏らしい青空の下、1泊2日の行程で登ってきました。
初日は、登山口から、ゆっくりと高度を稼ぎながら5時間かけ、
頂上直下、標高2450mにある山小屋へ。


一番ポピュラーな登山道、別当出合登山口からのスタート


途中に、歴史ある霊峰であることを忍ばせる湧水が


5時間の登山で山小屋へ到着

夕食後、夕暮れどきに宿泊所の周辺を散策すると、目の前にすーっと一筋の雲、
遠くに御嶽山の大らかなシルエットが輝き、世界がゆっくりと紫色に、
そして徐々に紺青色へと染まります。一刻一刻変わる色合いと雲の形の共演に、
寒さも忘れて立ちすくみ、山の上での一番贅沢な時間を味わいます。


夕暮れは秒ごとに光の様子が変わるのでいつも見惚れてしまいます


御嶽山のシルエットが素敵でした

翌朝は、白山奥宮の神職さんが、和太鼓を叩く音で起床。
山頂でご来光を見るために、まだ暗い時間に出発です。
頭にヘッドライトをつけ、真っ暗な登山道を、山頂へ一歩一歩進んでいくと、
40分ほどで白山山頂2702mに到着です。山頂には白山奥宮が鎮座し、
下駄で登ってきた宮司さんが、朝のお勤めをされています。
あいにく雲の中に入ってしまい、周囲の景色は見えなかったけれど、
逆に幻想的な雰囲気で、この日々行われているのだろう儀式は、
ここが歴史ある信仰の山だと実感させてもらえました。


日の出の時間、山頂にて

小屋へ戻るルートには、クロユリやらハクサンコザクラの一面の群落で
地面がカラフルに彩られており、天上の花畑が続く道。
150年前の植物学者たちの興奮に思いを馳せます。
夏のシーズン、250種類の花を咲かせる白山。花の山の王者として
相応しい光景を堪能できる道でした。


ハクサンコザクラのお花畑


クロユリが一面に

さて、このような霊山、日本百名山、花の山として名高い加賀白山は、
年間5万人の登山者が訪れるのだそうです。それだけの人が足を踏み入れれば、
当然、山へのインパクトも残ります。いやいや、自分は大丈夫、
ゴミはちゃんと持ち帰っているし、登山道は踏み外さず、花を折り
持ち帰ったりもしないですよ、と思う方がほとんどでしょう。

では、この写真をみて、何を思われますか?


登山口によくある靴洗い場(写真は白山ではありません)

山道は、雨なので濡れているととくに、泥が靴につきます。
登山を終え、車、電車、宿に戻る前、この泥を落としておきたい。
そんなときに登山口にあるブラシと水道。
当然目がいくし、靴をきれいにしたい、そう思われますよね?

では、登山を始める前、入り口にあるこのマットに、気は向くでしょうか?
あまり気に留める人はいないのでは?

白山の登山口に置かれていた足拭きマット

これは、実は、登山後ではなく、「登山前に」使ってほしいと置かれた
マットです。登山者の靴についた種子が、白山に外来種を運び込んでしまう
原因になるから、靴をきれいにしてから入山してほしいと願う、
白山国立公園の取り組みです。
横にはきちんと説明板も備えられ、説明書きもあります。


「守ろう 白山の高山植物」解説板

登山口、意識と目は山の上へ上へと行ってしまうため、足元にある地味な
マットや看板には目を向けにくい、気づきにくいかもしれません。
ですが、さらに注意喚起は続きます。1時間ほど歩いた登山道にも、
マット、そしてブラシと看板が設置されています。


登山者の靴底や服についてきた種が、山の中で落ち、元々存在していない
植物が生えてくる。もともと生えている在来種が駆逐されてしまったり、
交配して雑種が作られてしまったり。今山上で見られた貴重な花畑が、
近い将来、西洋タンポポやオオバコなど、外来植物の草原に変わってしまったら…。
しかもその原因が、山を愛しているはずの我々登山者にある。


(出典 石川県白山自然保護センター 白山の自然誌33
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/kzfpr1hpdjjk/imdvi6zs/sizen33.pdf

山に行く前に毎回靴底やバックパックをきれいにする。
こういったマットがあれば、その都度、靴底の汚れや泥を落として行く。
それだけで、外来種の持ち込みは半分以下になるとの研究結果も出ています。


(出典 国立環境研究所
https://www.nies.go.jp/whatsnew/20210907/20210907.html

一人一人の意識と気づき、ちょっとした、ほんの小さな思いやりや行動の
積み重ねが、自然を守る、将来につながる一歩になる。今回は、登山の
お話をしましたが、日常にはそういう小さなヒントが、たくさん転がって
いるような気がします。自分の周りの自然環境に、今どういう問題があるのか。
何ができるのか。好きなもの、大切にしたいもの、将来につづいていって
ほしいものに興味のアンテナを立てることは大切ですね。

山頂の花畑の美しさと同じくらい、登山道入り口のマットにも、たくさんの
人が気づいて、行動変容してくれたらいいなあ、と感じた白山登山でした。


植物も動物も。地球の貴重な生態系が、今後も保たれますように

<写真、文 青崎涼子>

参考
環境省 アクティブレンジャー日記「外来植物対策」
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/z7q3bdfyt7an/imdvi6zs/

環境省 白山国立公園
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/emmvp8efg2rx/imdvi6zs/

石川県白山自然保護センター 白山の自然誌33
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/60itowp2uyfx/imdvi6zs/

国立環境研究所
その靴、掃除しました?高山域への外来植物の持ち込みの抑止は訪問者の無知識・無関心ではなく無行動が障壁に
https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/kvx9kviwapbk/imdvi6zs/

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https://i.r.cbz.jp/cc/pl/gxrx5667/30gmo735fsj4/imdvi6zs/

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