「生物多様性」って何?

こんにちは
どうぶつ基金理事長の佐上です。

今さら聞けない言葉の一つ「生物多様性」

なんとなくわかっているつもりだったけど
「生物多様性を守るために生物を殺す必要があります」とか
言われると、これって「平和のために戦争が必要」とか
「核兵器廃絶のための核兵器保有」とかに似てて

なんだか訳が分からなくなります。

そこでおなじみマエキタミヤコさんに
ちゃんと教えてもらいましょう。
夏休みの自由研究に悩む学生さんも必読かも。

「生物多様性、ってコトバがわかりません。」

よく言われます。ずっと言われています。

「いろんな種類のいきものがいた方がいいという意味です」と答えていますが、
それでも首をかしげられ、腑に落ちないなぁ、という顔をされます。

「当たり前の事なのになんでわざわざ難しい名前をつけるのですか」
とも言われます。

ウガンダ ヒメコンドル

ことばのことって、よくわからないなあと思う時は、「反対を考える」
ということをよく、します。

ことばって、何かと何かを「言い分けるための道具」だから。

で、「生物多様性」という「いろんな生きものがいること」の反対が、
「生きものがひとつの種類しかいない、種類の数が少ない」こと、です。
あるいは「居た生きものが居なくなった」こと、つまり絶滅です。

そうなんです。
生きものの種類が少なくなってくる、のは、絶滅の予兆なんです。

少なくなっている「その」生きものの絶滅、だけじゃありません。
今は栄えているように見える人類の絶滅の予兆、でもあるのです。

え、実感がない?

ですよね。

圧倒的に、爆発的に増えているのだから、勝ち組でしょ、
と思っている人もいるかも。

でも。この地球上の自然の摂理と歴史の中で、
圧倒的勝ち組だった生きものが、
急に数が減って絶滅に至る、
という出来事は何度も繰り返されてきました。

え、人間だけは例外?頭がいいから?

ふーん。ですよね。私もそう思いたいです。

「当たり前のことをなんでわざわざ」の件ですが、
「当たり前」のことなんだけど、

今は「やらなくっちゃいけないんだよ!!!」と言う時、
その呼びかけの情報発信には、とても苦労します。

なぜなら「当たり前」のことは、
「通常誰かが、あるいはみんなが、やってくれているから大丈夫」
だから、ずっと「当たり前」で居る事ができた、からです。

ほぅ。

では、逆になぜ「やらなくっちゃいけないんだよ!!!」と
言わなくちゃいけなくなったんでしょう。

まず、生きものの話に集中すると、人間は水を汚染します。
水だけでなく、土や空気も汚染します。

ウガンダ ナイル川

人間による汚染、というのは、具体的にいうと、糞尿を下水として流すこと、
そのほかに、有害な化学物質を流すこと、燃やして有害なガスを出すこと、
があります。そのどれもが生きものと生態系に影響を与えています。

次に、自分が移動するのに伴って生きものも移動させる、
ということもジャンジャカしていました。ここ200年の間の話です。

ウガンダ イリエワニ

私たち人間は、46億年前にできた地球の歴史のなかで、
直近の100万年ぐらいを生きて、
20万年ぐらい前からアフリカやパレスチナあたりから移動し始め、
全世界に広がり、200年前には10億人だったのが、
今ではその7倍の70億人と爆発的に増えた、
一種類の生きものです。

人間の数が圧倒的になったことに影響を受け、生態系も激変しました。
空気の構成要素の割合まで変わってしまったのですから。

後世の人間が地質に埋まった化石などを研究すると
生態系が激減したこの世代のことを
「人新世(じんしんせい)」と呼ぶのではないか
(というか、もう自分たちで呼んでますけど)という話まで出ています。

これ以上、地球の生きものにご迷惑をおかけしないためには、
いや、自分たちが生き延びるために、できることはないのか。

せめて、200年前にジャンジャカ、せっせせっせ、とやっていた、
今は「やっちゃいけない」とわかった事を改めよう、という動きがあります。

「動植物の移植」です。

『外来種は本当に悪者か?(フレッド・ピアス著・草思社刊)』という
本によると、古代ローマ人は食肉用にと中東のハツカネズミと
イベリア半島のアナウサギをイギリスに持ってきたし、
イギリスからオーストラリアへの移民はヒツジとアナウサギを持ち込んだし、
コロンビア湖にナイルパーチを放す人もいた、と書かれています。

鹿児島県奄美大島でもハブ対策としてマングースを放した人がいたため、
ハブではなくアマミノクロウサギが食べられ激減し、
20年かけてマングースを駆除したところアマミノクロウサギの個体数は
劇的に回復した、という日本の事例も記憶に新しいところです。

この本(『外来種は本当に悪者か?』)は、持ち込まれた動植物は
「外来種」なので、取り除かなければならない、という「流行り」の
科学的根拠を徹底的に検証しています。

外来種のせいで起きている環境破壊もあるけれど、
大きくは人間という侵入がそもそも環境破壊のおおもとにあり、
国連やそれぞれの政府が旗振りをする「外来種駆除」には
あやしいところも多々あり、常に科学的な調査や根拠、
そして検証が必要だ、と締めくくっています。

ウガンダ マウンテンゴリラ

いろいろな生きもの、って、当たり前にあるじゃん、と油断していると、

はっと気がついたら「なかった」

そんな事が多発しているから、なくなる前になんとかしよう、
と知恵を凝らすのが、私たち。

この「われら生きものの世界」というのが、
自然環境や地球環境や生態系と呼ばれ、

「なんとかしよう」という「なんとか」が、自然保護、生態系保全、
持続可能性への取り組み、と呼ばれています。

撮影地:ウガンダ

「生物多様性」も含めて、わざわざ難しい名前をつけるのは、
「新しくて重要な問題なのでこれまでとは違うと言う意味で
新しい名前をつけたので覚えてください」

という作戦だからです。これを「記号化」といいます。

「これまでは当たり前にあると思っていたけど、
なくなりそうだから気をつけて!!!」

という「しるし、記号」をつけるため。

でも、そのしるしがついているからといって、国連機関や政府が旗振りを
しているからといって、何でもかんでも正しい、というわけではないのですね。

ひとつひとつ、ちゃんと科学的な根拠を調べて、
ローカルでチェックしないといけない、というのが、「生物多様性」。

土や水や植物や虫や動物やヒトが、その土地で、
どんな関係を築いているのか。

まだまだ知られていないことがたくさんあるようなので、

誰か「偉い人」がいうことを鵜呑みにするのではなく、自分の頭で考えて、
知っている人に質問して、感じたことを発言していく、伝えていく。

そんなことを日々心がけていなくっちゃ、ですね。

文責 マエキタミヤコ

よく考えることが大事だニャン

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