猫ボラさんお悩み相談室(1)地域住民へのTNR説明をどうする?

こんにちは、どうぶつ基金事務局です。

まだまだ新型コロナウイルスに振り回される日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。
そろそろ花粉症も始まる季節。
体調管理をしっかりとして、元気に乗り切っていきたいですね。

さて、どうぶつ基金には、全国でTNRに取り組むボランティアの方々からさまざまなご相談が寄せられています。

そのなかでも特に多いのが「地域住民の方の理解が得られない」というものです。
どうぶつ基金でも、地域の実情などを想像してご回答はさせていただくのですが、
より具体的で的確なアドバイスができないか…
何度も修羅場(!)を乗り越えてきた経験者のお話をお伝えできないか…
そうすればもっと皆様の活動をサポートできるのに、と考えていました。

そこで、白羽の矢がたったのが、どうぶつ基金のスーパーボランティアとしてご活躍されている
「十三さくらねこの会」代表の原田玲子様。

TNRの経験が豊富で、さまざまなタイプの地域住民の方と接しておられます。
そんな大ベテランの原田様に、地域住民の方にTNRを理解してもらうにはどうすればよいか、
以下3回にわたって対応のポイントやコツを教えていただきます。

第一弾:自治会会議等、地域で決定権のある方々への対応例
第二弾:ボランティアの話に耳を傾けてくださる住民の方への対応例
第三弾:猫が嫌いで、猫ボランティアへの嫌がらせ等もいとわない方への対応例

それでは、3回シリーズの第一弾。
「自治会会議等、地域で決定権のある方々への対応例」をお届けします。


皆様、こんにちは。
「十三さくらねこの会」代表の原田玲子と申します。

今回より3回にわたって、自身の経験を交えて対応のポイントやコツをお伝えできればと思っております。
よろしくお願いいたします。

さっそくですが、自治会会議等、地域で決定権のある方々へTNRについてご説明する場合のポイントは主に以下となります。

1.猫問題の解決に必要なものは
  「対立」ではなく「協調」
  「排除」ではなく「共生」
  「共感」と「歩み寄り」

2.「健康な雌猫は生涯に100匹子猫を産み続けます」と
   具体的な数値で猫の爆発的な繁殖力をお伝えする

特に、猫の繁殖力について説明すると、ほとんどの人が目を見開いて驚かれます。
それでは、経験をふまえて整理した対応策をお伝えします。

この僅か1匹の雌猫が100匹も子猫を産みます!(提供:十三さくらねこの会)

☆☆☆

第一段階:猫で困っていることや猫に対する感情を聞き出す

まずは、今抱えている問題点や猫に対する感情をすべて吐き出してもらいましょう。

飼い主のいない、身寄りの無い猫たち。
「可愛い」「癒される」「可哀想」
「猫アレルギーだから接触できない」「迷惑だ」「近付いて欲しくない」等々、
彼らに対する人の感想は様々です。

存在にすら気が付かない無関心な人も多いでしょう。
自治会の会議の席などで「飼い主のいない猫でお困りの事はありませんか?」と問うと、
・猫の糞尿が臭い
・タイヤで爪を研ぐ、車を傷付ける
・発情の鳴き声がうるさい
・子猫が産まれ、数がドンドン増える
と、生活環境が物的に悪化している事を主に訴えられます。

町中に沢山いた猫達(提供:十三さくらねこの会)

また、必ずと言って良いほど、
「近所の人が餌やりをして困っている」
と、ご近所トラブル勃発で人的環境も悪化しています。

困惑の段階を超えて、猫の存在や餌やりをする人に対して、強いお怒りの感情を吐露なさる場合も多いです。
 

第二段階:「責任の追及」と「問題の解決」を分けて考えるよう提案

参加者のお気持ちをお聞きしたうえで
「責任の追及」と「問題の解決」を分けて考えるようご提案します。

餌やりをしてる人や猫の存在を責めても怒っても、
対立が深まるばかりで、何の向上も進化も救済も得られません。

「対立」するのではなく「協調」し、皆で知恵を絞って
「問題の解決」に注力するのが合理的です。

では、問題はどうすれば解決するのか?

答えは簡単です。
飼い主のいない猫がいなくなれば全て綺麗に解決です。
逆に、猫が増えると皆が困ります。
その為には、具体的に何をどうすれば良いか?

どこか別の場所へ連れて行く、ましてや殺傷するなどは論外です。

猫は「動物の愛護及び管理に関する法律」により
愛護動物として定められているので、殺傷や遺棄は犯罪となります。
行政も捕獲や引き取りはしません。

十三エリアの一斉手術の一コマ(提供:十三さくらねこの会)

餌やり禁止もよく言われますが、
餌やりをやめたところで、猫は簡単に餓死などしません。
ゴミを漁り、家屋内に侵入して食べ物を窃取します。
餌がもらえないからと移動し、たとえそこからいなくなっても、
問題をよそ様になすりつけているだけで、全く根本的な解決にはなりません。

そもそも、猫は餌やりをするから増えるのではなく、
避妊手術をしないから増えるのです。

参照「猫の餌やりは悪?」(どうぶつ基金)

では、何もしないで放置していたら?
どんどん猫の数は増えて、糞尿はますます増え、問題は悪化の一途を辿ります。
そうなってくると、「可愛い」と言ってる方々もそれどころではなくなります。
「可哀想」「迷惑」な猫が増えるばかりで、
餌やりをする人に対する悪感情もますます激化し、
人的・物的環境の悪化が更に深刻化するという悪循環に陥ります。
 

第三段階:具体的な問題解決策としてTNRをご提案

最優先事項は、とにかく繁殖を止めること。

マナーを守らない餌やりさんの責任を追及しても、餌やりをやめても、
マナーを守った餌やりや糞尿の清掃を徹底しても、
問題は解決しないことをしっかりとご説明したうえでTNRの有効性を説きます。

現時点において、合法的・人道的かつ効率的に猫の個体数を減らす唯一の方法は、
猫を捕獲して避妊手術(TNR)をする事だけです。
繁殖を止めるだけで、様々な問題の予防・解決に繋がります。
尻尾に大怪我をしていて断尾手術と去勢手術を済ませた猫のリターン(提供:十三さくらねこの会)

しばらくは個体数が増えないだけで、
ただちに猫の数が減るという目に見えた即効性はありません。
しかし、数年という長期的な視点で見ると非常に効果が高いのです。

そのうえで、マナーを守った給餌やトイレを設置する等をして、
猫が短い生涯を全うするまで適正に管理する取り組みは、
環境の美化に大いに寄与します。

!!重要ポイント!!

強調すべき点は、
「この取組は、猫好きの猫好きによる猫好きの為の活動では決してない」ということ。

TNRは、地域住民全体の利益に資する環境改善活動です。
住民お一人おひとりが強い利害得失を有する地域の人的・物的環境を
そこに住む当事者として整え、より住み良い街にする取り組みであり、
猫に困っている方こそ大きなメリットを享受できる、極めて合理的な手段なのです。

さらに、教育的側面の利点もお伝えします。
小さく弱い、お腹を空かせて困っている生き物を排除するのではなく、
手を差し伸べて共生の道を開く大人の背中を見せることは、未来を担う子供達へ
公徳心・他者への優しさ・寛容さ・思いやり・共感・生命の尊厳といった美德を
身を以って示す稀有な教育の機会ではないでしょうか?

「今、日本では、多額の税金を投じて数万匹の猫を殺処分しています。
そんな無慈悲な殺生が行われている事実を、あなたは大切なお子様やお孫さん、
姪御さんや甥御さんに胸を張って言えますか?
今現在の自分だけの損得だけではなく、どんな未来を次の世代に残したいのか?
もっと未来を、広く社会全体を見通して、理知ある選択をしませんか?
こんな事は、私達の世代で終わらせましょう。」

と問いかけてみましょう。
 

最終段階:同意を取り付ける

繰り返し伝えなければいけないことは、猫が繁殖せずに数が減っていけば、
諸々の問題は全て解決するということです。
良い事だらけでデメリット0です。

この点を繰り返しお伝えし、
「ここまでお話してTNRに反対の人はいらっしゃいますか?」
という感じでお話したら、
決定権のある方々は大概、TNRにご理解とご協力を示して下さいます。

☆☆☆

心得ておくべきことは、言うまでもなく
「この人なら自治会として協力しても大丈夫だ」と信頼されるに足りる
良識と常識を備えた人物であることを分かっていただくことです。

具体的には、
きちんとした言葉遣いと清潔感のある服装で敬意を表すること。
あまり猫猫猫と言わず、人間にとってメリットがあると強調すること。
猫や餌やりさんにご立腹の方のお立場やお気持ちにこそ寄り添い、理解と共感を示すこと。
そして「今、私に協力しないと、チャンス逃しちゃいますよ」とへりくだり過ぎないこと。

お相手に諾否の権限を勝手に差し出してしまう
「許可して下さい」はNGワードです。

あくまでも求めるのは「ご理解とご協力」です。

私などは、
「皆様は非常にラッキーです。私のお陰でこの町の猫問題は解決に向かいます」
と上から目線で機先を制したりも致します(笑)

そして、持参したプリントを校長先生や町会長にその場でお渡しし、
「配布はいつ頃になりますか?」
と迅速にこちらのペースに巻き込んでお話をドンドン進めます。

上の写真は、TNRにご協力いただいた小学校です。
会議に出席なさっていた地元小学校の校長先生にご協力をお願いし、
さくらねこについてプリント配布をしていただき、
敷地内に捕獲器も置かせていただきました。
校内に未手術の猫が侵入していないか確認するために訪問した時の写真です。

このようなお話が、少しでも他のボランティア様達のお役に立てるなら幸甚に存じます。

十三さくらねこの会:原田玲子


いかがでしたでしょうか。

第一段階から最終段階まで、トーク例としてもそのまま活用できる内容で
どうぶつ基金のスタッフにとっても大変参考になりました。
原田様は常に以下のようなプリントを持参して説明に臨んでいるそうです!

口頭だけでは聞き入れてもらいづらい点もあり、
このように視覚的に訴える方法も有効だと思います。

どうぶつ基金では、説得力のある数値を盛り込んだ資料を多数用意しています。
資料請求はもちろん、気軽にダウンロードしてお使いいただくことも可能です。
「自分で作るのはちょっと…」と思う方はどんどんご活用ください!

※どうぶつ基金のイラスト・チラシ等ダウンロード画面はこちら

さて今回は初級編として第一弾をお届けしましたが、
第二弾:ボランティアの話に耳を傾けてくださる住民の方への対応例
第三弾:猫が嫌いで、猫ボランティアへの嫌がらせ等もいとわない方への対応例
と続きます。

少しでも皆様のご参考になれば幸いです。

2020年度に誕生したさくらねこは年間累計で4万頭以上!
コロナ禍のなか、年間通して無料不妊手術チケットを発行できたのは、
ひとえに皆様の温かいご支援によるものです。

また、チケットが発行できても、
全国の協力病院、原田様をはじめとする全国の協働ボランティア様の
ご協力がなければ「さくらねこ無料不妊手術事業」は成り立ちません。

1頭でも多くのさくらねこを誕生させるため、2021年度も
全国のボランティア様や協力病院と力を合わせて取り組んでまいりますので
ぜひ継続したご寄付をご検討いただけましたら幸いです。
https://www.doubutukikin.or.jp/contribution3/#form

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