【ちきゅう部だより】ちきゅうのはじっこで考える vol5

こんにちは
どうぶつ基金事務局です。

本日は「ちきゅう部だより」の第6弾をお届けします!

アウトドア&通訳ガイドの青崎涼子さんが語る旅のお話、
今回は高知のとある地域の春の景色です。

明るい色合いで心華やぐ春の風景!
自然が生み出すその鮮やかな光景は目を見張るばかりの美しさです。

ちきゅう上のほんの小さなエリアかもしれませんが、
その美しい光景が作られたのは、たった一人の行動が始まりでした。

その土地の未来を想い、動いたことがきっかけで
作り出された景色のお話。ぜひご一読ください。

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ちきゅうのはじっこで考える vol6:高知の山奥で見つけた花桃秘話

みなさん、こんにちは。
世界の辺境地を旅するガイド、青崎涼子です。

これを書いているのは4月初旬。

東京の自宅の窓からは、冷たい雨の滴とともに、
ソメイヨシノの花びらがハラハラと舞っています。

江戸時代に誕生したソメイヨシノ。花付きがよく、葉がでないうちに
花が咲き見栄えがするため、あっというまに人気者となり、
今や全国に植えられている桜の80%はこの種類だとか。
同じ品種なので、同時期に一斉に咲いて、一斉に散るのも納得です。

一斉に咲いて一斉に散るソメイヨシノ

野山に咲く山野草は、自然のサイクルのなせる技ですが、
このソメイヨシノのように、誰かが意思をもって植えた園芸種の花々も、
わたしたちの目と心を楽しませてくれるという意味では同じです。

3月末、高知の山奥…愛媛との県境の村落を訪れる機会があり、
そこで見た花桃の秘密を、今日は書いてみたいと思います。

高知空港から北西に車を走らせること1時間半。国道を離れ県道へ入ると、
車同士がすれ違うのはやっとという狭い道に変わります。
川の流れが作り出したV字峡谷の深い谷底を、または急峻な山の斜面を、
縫うように続く道を走り、到着したのは仁淀川の上流にあたる安居渓谷。

地図(出典/国土交通省HP)

標高1982m、西日本で一番高い石鎚山が源流となるこの川は、長さ124km。
下流は広い河原をもつ、おだやかでゆったりとした流れ、カヌーを浮かべて
のんびり水遊びしたくなるような川ですが、上流に近づくと、急峻さを増していき、
渓谷の中に、透き通った真っ青な水が飛沫をあげています。

川の水位、太陽光線の角度や強さで、色の出方は変わるのでしょうか、
私が訪れたときは、吸い込まれそうなエメラルドグリーン色をしていました。

水深4mはあるとのことですが、川底の石が、くっきりと見える透明度。
最近は「仁淀ブルー」として知られはじめているので、
写真を目にされたことのある方も、いらっしゃるのではないでしょうか?


水の美しさに目を奪われる仁淀川

この仁淀川上流地域は、ほぼ9割が山林という山深い場所です。
それでもかつては、伊予へ抜ける街道筋であり、また、銅山や石灰の採掘で
栄えたこともあり、あちらこちらに、急峻な山の斜面を切り開き、
段々畑とともに形成された集落があります。集落には、何百年という歴史を
ずっと見守ってきたであろう樹齢数百年の枝垂れ桜が、堂々とした姿で、
今も静かに立っています。

こちらは樹齢200年の枝垂れ桜


桜地区のひょうたん桜は、なんと樹齢500年。
その周囲も桜で埋めつくされていました

普段、街中で目にするのは、せいぜい樹齢数十年のソメイヨシノ。
綺麗、だけではない、風格漂わせる大木に圧倒されながら車を走らせていると、
急斜面に張り付くように植えられた茶畑の間に、桜よりも、もう少し色の濃い
ピンク、赤、白と、カラフルな花で染められている箇所が多いことに気づきます。

四国名物、沈下橋の横に見えた花桃ゾーン

そう、花桃。
江戸時代、花の観賞用に改良された木です。
あくまでも花がメインで、食用にできる実はなりません。
今まで、庭木として1本、2本という単位でみたことはありましたが、
こんなにも、あちらこちらで、密集しているのを目にするのは初めてでした。

元気をもらえる鮮やかな色合いの木々が密集している姿は、否が応でも
目につきます。予定にない箇所も、思わず車を止め見入ってしまうような
桃源郷が、あちらこちらに出てくる仁淀川町の花桃林。

一体どうして、こんなにもたくさんの花桃があるのか、地元のガイドさんが、
花咲か爺さんの話を、土佐弁混じりで語ってくださいました。

道路を走っていると、よく目にするのが茶畑の中に突如現れる花桃林

この地方は、石灰岩質の水捌けの良い地の利を活かしたお茶の栽培や、
和紙の原料となるコウゾの栽培をする農家の多い場所でした。

しかし、過疎化、高齢化の波はここにもやってきます。
若い人たちは街へ出てしまい、また、手のかかる段々畑を継ぐ人もいない。
1970年台には12,000人いた人口は、徐々に減っていく一方で、
今では全盛期の半分以下、5,000人まで落ち込んでいます。
高齢化率も半分以上。上久喜地区と呼ばれる場所も例外ではなく、
今では8世帯15人が住むだけの、静かな集落です。

ここで茶畑を生産されていたのが日之裏隆寛さん。
代々守ってきた段々畑ですが、後継者がいない。
自分が動けなくなったとき、この茶畑が荒れていってしまうのは忍びないと
危惧する毎日。そんなある日、近くの村で、綺麗な花桃に出会います。

もし自分の段々畑がこの花桃で埋め尽くされたなら、
遠くからこの花を見にきてくれる人もいて、少しは賑やかさを取り戻すであろう。
後々までみんなに喜んでもらえるであろうと思い、植え替えを決断されます。

もらってきた5粒の花桃の種をもとに、挿し木、接ぎ木で徐々に増やしていき、
自宅の周りは1,000本の花桃畑に生まれ変わります。

日之裏さんの花桃畑

お茶やコウゾと違って、一銭にもならない花を植えてどうするんだと、
最初は誰からも賛成されず、奇異な目でみられたそうです。
でも、彼が手を止めることはなかった。
淡々と木を増やしていったのだそうです。

十年後、段々畑が一面ピンク色に彩られたのを見て、
日之裏さんの思いは、ようやく周囲の人たちにも届きます。

うちの畑にも植えよう、うちの集落の公園も花桃で彩ろうと、
彼の気持ちはどんどん伝播していき、気づけば、この地方一帯が、
春になると、花桃色に染まるエリアになっていた、というのです。
最近では、遠くからこの花桃を見学にやってくる人も増えてきて、
週末は大賑わいになるのだとか。

桜と花桃、菜の花の共演

最初の一粒を蒔いた日之裏さんは、2013年の春、
その年の花桃を見たのち、老齢で息を引き取られたとのこと。

私が訪れた時、日之裏さんのお庭はしーんと静まり返って、
ウグイスとミソサザイの歌声だけが山の中に響いていましたが、
隣の久喜地区では、ご自身の土地一面に花を植えたという方にお会いしました。
「遠いところからよくいらした」と、庭に招き入れ、
植えた花をひとつずつ解説してくださいました。

桃源郷って言葉がぴったりです

バタフライ効果、という言葉があります。
羽ばたいた1匹の蝶を見て鹿が飛び跳ね、ライオンが気がついて鹿を追いかけ、
逃げる鹿の勢いで風がまきおこり、最後には竜巻を引き起こす…というように、
ほんの些細なことが、さまざまな要因を引き起こし、
最終的に大きな事象の引き金につながるという考え方です。

高知の山奥で、周囲の反対に負けずご自身の意思を貫き、
5粒の花桃の種を蒔いた日之裏さんは、1匹の蝶。

その行動が、この地域全体に竜巻を引き起こし、
地域全体が花桃で、桃源郷として全国に名を馳せるまでになったのです。

私が目にしたのは、ただ綺麗な花桃ではない、
日之裏さんの未来を見据えた第一歩の、その未来の姿でした。

ほんの些細なことでもいい。
ほんの些細なことが、大きな渦となるきっかけになるのかもしれない。。

ちきゅう部の一員として、地球をやさしさで包み込む一歩を踏み出せるような、
心意気と勇気を持っていたいと思わされた、桃源郷の光景でした。

<文、写真とも 世界のはじっこを旅するガイド、青崎涼子>

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