『奄美ノネコ管理計画』への意見書提出 川口短期大学 小島望教授

反対署名10万筆まであと少しです。下記ページよりchangeorg.への署名をお願いします!
「世界遺産を口実に、奄美や沖縄の猫を安易に殺処分しないでください!」

 

川口短期大学教授の小島望先生が環境省に意見書を提出されました。小島先生の許諾を得て以下に全文を掲載いたします。

 


平成 30 年 11 月 13 日
環境省自然環境局 総務課 動物愛護管理室
環境省自然環境局 野生生物課 希少種保全推進室
環境省奄美野生生物保護センター
奄美大島ねこ対策協議会 御中

『奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画』への意見書

川口短期大学 教授 小島望

野生動物の保全生態的研究,および動物の餌付け問題を通じて「野生」と「野生」で
はない境界領域の動物の研究に携わってきた専門的立場から,『奄美大島における生態系
保全のためのノネコ管理計画(以下,『奄美ノネコ管理計画』とする)』において,複数
の矛盾点や不合理的な点が確認できたため,以下について早急に改善を要求します.なお
本要求に対する回答は平成 30 年 11 月 27 日までにお願いいたします.

1.奄美大島ねこ対策協議会は「ノラネコは動愛法対象である」という認識に基づき,再
度環境省との協力・連携のもとでノネコ譲渡の運営体制の改善に取り組みこと
理由:現在,「環境省からノラネコは『動物の愛護及び管理に関する法律(以下『動愛
法』とする)』対象ではないと聞いた」との協議会の誤った認識に基づいて,ノネコセン
ターの運営が行なわれています.環境省の全面的な協力体制をもとで実施していると主張
しながらも,『動愛法』の基本的な考え方でさえ正しく理解できていなかったという事実
は,協議会と環境省の連絡・調整不足,縦割り行政の弊害を露呈しています.
『奄美ノネコ管理計画』の関係機関においては,このような初歩的な共通理解がなされ
ないままネコ譲渡が進められていた異常事態について猛省を求めるとともに,殺処分ゼロ
を目指す環境省の方針や『動愛法』の精神に合致するネコ譲渡の体制・運営へと再構築を
図ることを要求します.

2.他地域でのノネコ問題へ悪影響を及ぼす『奄美ノネコ管理計画』におけるノネコの定
義の拡大解釈を見直すこと
理由:『奄美ノネコ管理計画』の考え方では,ノネコとして捕まれば,ノラネコや飼い
ネコであっても「ノネコ」であるという理屈になりますが,当然のことながら,ネコを山

野(の)で捕獲したら「ノネコ」になるわけではありません.環境省自然環境局長から出
された昨年の通知<平成 29 年3月 31 日付け環自野発第 1703311 号>の「野生」につい
ての定義にしたがってノネコを定義すれば,「当該個体が元々飼育下にあったかどうかを
問わず,飼主の管理を離れ,常時山野等にいて,専ら野生生物を捕食し生息している状
態」のネコが「ノネコ」であると解釈されます.さらに「市街地または村落を徘徊してい
るようないわゆるノラネコ,ノライヌは法(『鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に
関する法律(以下『鳥獣法』とする)』の対象にはならない」とあることから,捕獲され
た個体がノネコなのかノラネコなのか,それとも飼いネコであるのかを判別するには,捕
獲したのちに慎重に検証する必要があります.
そもそも常時山野等にいて,専ら野生生物を捕食し生息している,集落に全くといって
いいほど依存していないネコがそれほど多くいるとは考えにくく,むしろ捕獲されるネコ
のなかには,かなり高い確率でノラネコやイエネコが混じってしまうことが容易に推測で
きます.しかしながら,『奄美ノネコ管理計画』では「森林内のネコはノネコがほとんど
と推測される(『奄美ノネコ管理計画』7-1(3))」との憶測を示していることから,本計
画の見通しの甘さや裏付けとなる基礎調査の不十分さは否めません.さらに,条例で定め
られているマイクロチップ挿入と鑑札装着が義務付けられているからといって,当該地域
の両者の挿入率・装着率がさほど高いわけでもないにもかかわらず,鑑札やマイクロチッ
プ,首輪などが装着されていて飼い主がいると想定される以外の個体は「飼養を希望する
者への譲渡に努め,譲渡できなかった個体はできる限り苦痛を与えない方法を用いて安楽
死させる(『奄美ノネコ管理計画』7-1(4))」という軽率で拙速な方法で殺処分を進めよ
うとしており,「譲渡に努め」ようとする積極的姿勢は全く感じられません.
以上のことから,本計画は,『動愛法』対象の愛玩動物であるノラネコや飼いネコと疑
われる個体の存在を意図的に看過し,自然局長通知の内容に合致しないネコまでもノネコ
として速やかに処分しようとしている現在の意図的な解釈を改め,ノネコという不適切な
用語の使用は止めるべきであると提案します.

3.動物愛護軽視,希少種保護偏重の『奄美ノネコ管理計画』を見直すこと
理由:『奄美ノネコ管理計画』は希少種保護と動物愛護の二柱から構成されており,そ
の概念自体に異存はありません.森林内に侵入しているネコが希少種を捕食し,在来生態
系に景況を与えているだろうということにも否定はしません.本計画のなかで私が問題視
しているのは,捕獲したネコのその後の扱いについてです.
希少種保護という観点からは,アマミノクロウサギやアマミヤマシギなどの希少種の保
護が目的であり,捕獲したネコを森林外へ出した時点で目的は達成するため,捕獲された
ネコを殺処分しなければならない理由はどこにもありません.捕獲されたネコに罪はな
く,私たち人間にこそ罪があるということについては誰も異論はないはずだからです.し

たがって,何の罪もないペット由来のネコを極力殺処分しないように努めるのが筋であ
り,それは環境省のイヌネコ殺処分ゼロの方針と合致します.
しかし,『奄美ノネコ管理計画』におけるネコ譲渡の運営体制の考え方には,捕獲した
ネコを速やかに殺処分できるようにしたいという意図が強く働いているといわざるを得ま
せん.現在のノネコセンターでは,譲渡希望者を審査によって絞り込み,個体の写真を公
表せず十分な情報発信もせず,さらに譲渡期間を1週間と短くすることで,譲渡の機会を
意図的に縮小させ,殺処分を容易にするような仕組みとなっているからです.つまり,
「飼養を希望する者への譲渡に努め」るとしながらも,実際には協議会の職員の「ノネコ
管理計画はネコの殺処分が前提」という主張を具現化するかのような,ネコの生存の機会
を不当に奪う欠陥的施策となっています.動物愛護の観点からは,『動愛法』の精神や殺
処分ゼロの環境省の方針と明らかに逆行した内容といえるでしょう.しかも,捕獲数は予
想通りには進んでおらず,収容スペースには十分な空きがあると聞いておりますので,収
容期間の延長は難しくはないはずです.
以上のことから,『奄美ノネコ管理計画』のネコ譲渡における動物愛護管理面の充実化
を図ること,特に捕獲されたネコの写真の公表や保管期間の延長などを通じて,譲渡の機
会を可能な限り拡大することを強く要求します.

4.他地域でのノネコ問題の取り組みへ悪影響を及ぼす可能性が高いネコ譲渡の現運営体
制を見直すこと
理由:捕獲されたネコは疾病を保有している可能性が高く,人に馴れにくく一般的なネ
コに比べて飼育も難しいことから,譲渡希望者をある程度吟味せざるを得ない,そのため
に『ノネコ譲渡希望者審査委員会(以下,『譲渡委員会』とする)』は厳正な審査を行な
っているのだ,との行政の説明に対しては一定の理解はできます.しかし,もしそうなの
であれば情報発信を充実させ,譲渡のための準備期間に多くの時間を割くなど,島内外か
ら広く譲渡希望者を募る努力をしていなければ辻褄が合いません.実際には,譲渡希望の
需要が供給よりも小さくなるように恣意的な運営がなされており,譲渡に消極的な姿勢は
明白です.
特に,『譲渡委員会』の審査において,譲渡希望者に納税証明書や所得証明書を提出さ
せることは非常に多くの問題を孕んでいることを指摘しておきます.譲渡希望者に譲渡認
定証を交付するか否かは『譲渡委員会』の判断にのみゆだねられており,基準を満たす明
確な所得額は設定されず,判断基準の根拠も不明であるため,公正な審査となっていると
はいえません.何よりも,ノラネコが『動愛法』対象であることさえ認識のなかった組織
が果たして譲渡希望者の飼育条件について適切な判断ができるのか,さらには審査をする
資格さえあるのか甚だ疑問です.
このようなブラックボックス的審査に加え,譲渡認定証を持つ者のみネコの捕獲情報に
アクセスすることができる,地元鹿児島獣医師会所属の動物病院限定でのマイクロチップ

挿入義務があることなど,煩雑な手続きや不便さ,不条理さを手譲渡希望者に強要する仕
組みとなっており,特に島外からの譲渡の機会を著しく低下させている要因となっている
のは容易に推測できます.このような行政主導によるミスリードがまかり通れば,小笠
原,八丈島,御蔵島,天売島などの離島,および沖縄北部において捕獲したネコ譲渡に意
欲的に取り組んでいる諸団体のこれまでの努力に水を差し,悪影響を与えることは避けら
れません.
以上のことから,譲渡を軽視し,殺処分を前提とした『ノネコ管理計画』におけるネコ
の譲渡体制を早急に見直すことを強く要求します.

5.ノネコ対策以外の希少種保護のための取り組みを拡大すること
理由:『外来種被害防止行動計画~生物多様性条約・愛知目標の達成に向けて~環境省
ほか(2015)』では,「2011 年から 2014 年に撮影されたネコの画像を解析した結果,奄
美大島の森林内に広くノネコが分布することが確認され,その頭数は約 600~1,200 頭と
推定された」とあるが,そもそも 2010 年以前の個体数がどのように推移してきたのか
や,どの程度増加して現在の個体数になったのかが明らかになっていません.単に 600~
1200 という幅のある数だけをもって,近年ネコによる在来種への捕食圧が急激に高まった
とされる原因が,数が増加したことにあると考えているのであればあまりにも浅慮である
といわざるを得ません.かつての奄美の地域住民にとってネコを放し飼いで飼育するのは
一般的であり,奄美地方の世帯数や飼育個体数が近年増加しているわけでもないため,ノ
ラネコ(飼育されている個体で室内外を自由に出入りできる個体も含む)の個体数が一気
に増加して在来種への捕獲圧が急激に高まったとも考えられません.
第一に,奄美での野放図な道路開発が現状と深くかかわっていることを認識すべきであ
ると考えます.今回問題としているネコに加え,マングースのような外来生物が農地・山
林開発や林道開発の拡がりとともに外来生物が森林内の奥深くまで侵入する機会は確実に
増えているはずであり,このことが森林内でのネコの分布が広く確認できていることにつ
ながっていると考えた方が保全生態学的見地からは妥当といえます.一帯に広く深く延び
た道路網の発達が,交通事故の多発といった直接的な被害や,外来生物侵入の増大にとも
なう捕食圧の増加といった間接的な被害と密接に関係しているという視点が『奄美ノネコ
管理計画』には明らかに欠落しています.
2015 年 12 月に開催された『奄美の明日を考える奄美国際ノネコ・シンポジウム』の記
録集(鹿児島大学,2016)のなかで,地元小学生らが,奄美の在来種を捕食するネコの問
題について学び,話し合って作成した絵本が紹介されています.その最後に「大人の皆さ
んへのお願い」として,「森で捕まえたネコに新しい飼い主が見つかるまで飼っておける
施設を作ってください」との小学生の言葉が載せられています.現在実施されている『奄
美ノネコ管理計画』が,ネコに罪はない,何とか殺さないようにという子どもたちの願い
を的確に汲み取っていると,本計画作成や運営に関わっている関係者は胸を張っていえる
のか伺ってみたいものです.口のきけない,ましてや何の罪もない弱者をいとも簡単に殺
す社会がまともなわけはなく,長年放置してきた人間社会の問題のつけを全てネコに押し
付けて「死人に口なし」とばかりに責任転嫁して殺処分することは道義上決して許される
ことではありません.捕獲したネコの殺処分を容易に進める仕組みである本計画を知った
子供たちがどれほど社会に対して不信感を持つのかを真摯に考えてみてはいかがでしょう
か.
先日,5月に世界自然遺産の登録延期が勧告された「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及
び西表島」を,再度ユネスコに推薦するとの報道がありましたが,登録地申請地のひとつ
である奄美でこのような非人道的で杜撰な管理計画が行なわれていることが明るみにでれ
ば,選考の障害になりかねないと危惧しております.世界遺産登録を目指している場所で
あるからこそ,地元奄美の誇りとなれるような,さらには国際的にも評価されるような希
少種保護と動物愛護の両面が充実した先進的な管理計画を作成し,実施してほしいと願っ
ている次第です.
以上のことから,以前から指摘されている交通事故対策の強化はもちろんのこと,必要
のない林道を埋め戻して元の森林に戻すような環境復元型の希少種保護対策を強く要求す
るとともに,地元教育機関を行政の都合で利用するのではなく,環境教育の一環として,
またフィードバックシステムのひとつとして参画できるような関係を築くよう提案しま
す.

読売新聞2018年11月14日

反対署名10万筆まであと少しです。下記ページよりchangeorg.への署名をお願いします!
「世界遺産を口実に、奄美や沖縄の猫を安易に殺処分しないでください!」